2012年2月19日日曜日

デブサミ2012の感想

デブサミで思ったことをつらつらと。

まず、東さんのセッションで、この10年間のとくに最近において「ユーザーニーズと提供者の都合」のパワーバランスが前者に傾いたという話が今回のデブサミ全体で共通するトピックであると思いました。ちょっとゲームのルールがこれまでの延長線上からだけでは対応していくのは無理なんじゃないかと思うような。自分でも思っていたのだけど今回のデブサミに行ってよりその現実を付きつけられたというかなんというか。

業務系のシステム開発の現場では、リーマンショックの影響っていうのはそれなりにあって、案件規模が小さくなったり、短納期になったりといったことがあったと思うのです。外的要因として、システムを発注する顧客側がシステムに対して今まで通りには投資することができなったということでしょう。その結果が値下げの交渉であったり、いっそありものつかっちゃえーなSalesforceやGoogle App Engineの導入が進んだのではないのかと。

ゲームの方はというとソーシャル系のものやApp Storeの影響があって、ちょっとお金出せば遊べる、あるいは1円も払わなくても遊べたりするわけです。私が子供の頃、高くてめったに買えなかったKOEI三国志のシリーズは14,800円で提供されていたものがiPhone版になると1,200円で販売されました。10分の1以下です。しかし、それでもApp Storeの文脈でみたら1,200円って高いと思えますよね。だったらもっと安いアプリで遊ぶわーみたいな。ちょっとすごい世界です。

世の中というものは「安くて簡単」な方に流れるもので、服飾の世界なんかみればわかるんですけど、一人ひとりに合わせて誂えていたものが、いつしかパターンオーダーとなり、それが店頭で吊し服として売られるようになり、それが更に値段をどんどん下げているわけです。どこでも買える大量生産されている服ってうーん…、って思うんですけど安いしその辺で買えて便利だから、それでいいやーってなっちゃうわけですよ。(個人的には、何を着るか以上に、それをどう着るかの方が大事だと思うようになったので、服そのものの価値はそれほど感じ無くなったんだよなー…)

つまり、一般的なユーザーからしたらソフトウェアに対して払ってもいいと考える金額が下がる傾向にあり、ここ数年はその流れが一気に加速したわけです。

コストのダウントレンドが顕著であれば、対応策の一つとしては売る相手を増やすというのがあります。グローバルな市場にでていくわけです。しかしこれも哀しいかな、世界に散らばる強敵と書いて友と読む強敵達は、友な要素がまったくなく、むしろ日本国内の市場すら侵食されっぱなしな状態です。

さて、この状況を打開するにはどうするか? 選択肢としてはすでに普及しているものを駆逐するか、その上にのっかって美味しいところをもっていくしかないわけです。前者をやるのは体力的に相当しんどいので、多くの組織や個人は後半を選ぶことになります。その場合、すでに存在するプラットフォームを利用して、利用者や顧客に対してこれまでのITシステムやソフトウェアではできていなかったまったく新しいものを創造する必要があるのではないでしょうか。既存システムの延長線上にとどまらない、ユーザーのワークスタイルやライフスタイルそのものを変えてしまうようなレベルです。

「まったく新しいものを創造する」のは当然難しく一朝一夕でできるものではありません。イノベーションは継続的な試行錯誤の積み重ねからしか生まれないのです。そして、「ユーザーニーズと提供者の都合」のパワーバランスが前者に傾いたというのは、単純に既存業務をそのままITシステム化すればいいとか、あるいは既存ITシステムをなるべくそのままリプレイスすればいいとかの話ではないでしょう。組織のビジネス(収益)に貢献しつつ、実際に使うユーザーにとって役立つものになっている。これがコストのダウントレンドと合わさることで、開発者からみたらより困難な時代になっていくのかもしれません。

しかし、ちょっと良い目もあるのかなと思うところがあって、このような厳しい状況下では今まで以上に合理的にやっていく必要があるわけで、そういう時にリーンの考え方が普及すれば、あらゆる現場や組織が無駄を排除するでしょう。そしてより実効的で早い意思決定のプロセスが重宝されるはずです。それは局所的なものではなく、組織やビジネスモデル全体を俯瞰した上で行われるべきです。またビジネスとITの融合が相当進んだ今となっては、ビジネスとITが分離したまま話を進めるのは無駄もいいところで、両者を一緒にして短期間で目指すべき道筋を発見していく必要があり、そこにはデザインの力がキーになってくると考えられるわけです(そこで「サイクロン」ですよ、と言いたいw)。

さて、話をコストのダウントレンドに戻します。アジャイルは開発の現場に良い文化をもたらしたと思います。しかし今までのアジャイルでこのえげつないまでのダウントレンドを乗りきれるのでしょうか? これはアジャイルがどうたらというよりは、今のやり方でこの先もやっていけるのだろうか? そういう不安があります。思うに、コストという避け用のない現実と向きあって収益の流れから考え直す必要があるのかもしれません。つっこんだ人月の分だけコストを請求するモデルがいつまで続けられるのか…。これは倉貫さんのお話は解決策の一つであると思います。
そして、ダウントレンドに対して戦えるだけの武器を揃える必要もあるでしょう。当然、銀の弾丸はないので、現場・組織、あらゆるレイヤーで徹底的な効率化をしていくことも必要です。

さて、まとめますと、非常に厳しい世の中だなーという認識が強くなりました。いま書いた話だって「できんの?」って聞かれたらできる保証はありません。でも問題の箇所がはっきりしてきただけましだし、やってみないことには何にも変わらないのだから、だったらやってみようかと。そう思ったらひたすら動きまわっていくしかない。そんなデブサミ2012の感想です。




多分ね。

p.s.
セッション合間の立ち話や、サインをもらう時、そしてお酒を飲みながらいろんな方と話をしていろいろ勉強になりました。デブサミに関わったすべての人に感謝です。

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