2011年3月20日日曜日

BizRIAカンファレンスの感想(1)「MONEX VISIONβ」事例紹介

3/9(水)にBizRIAカンファレンスというイベントをやってきました。その感想をつらつらと。

そもそもどういったイベントであるのかというと、Flexを中心としたFlashプラットフォーム、つまりRIAなんですが、これって良い技術なのに上手く使われているっていう話が表にでてこないね、業務でどうやったら上手く活用できるんだろうね、そういうのをみんなで共有したいね、という狙いで企画しました。そのためのアジャイルでありUXであり要求開発ですよね、と。

マネックス証券さんからは「MONEX VISION β」のサービスの概要と開発の進め方をご説明いただきました。私なりの気づきを簡単に書くと下記。

・開発は現物主義
・良さそう!というアイディアはすぐ作ってみる
・ユーザーレビューをかなりしっかりやっている
・とことんユーザー指向

当日のセッションを聞く限り、UXの作り込みでやったほうが良いとされるユーザー調査、ペルソナ分析法などは今回はやっていませんでした。ここが驚き。
実はこのイベントの前に打ち合わせでもいろいろお伺いしたのですが、進め方を聞くと一人の主担当者がたたき台となるモックアップを作り、そこからチームで作業をしたそうです。しかし今回はたまたまそのように進めたものの、これまではしっかりとしたデザインプロセスを踏み、ひと通りのプラクティスは試したとのこと。MONEX VSION βはこれまでの検証結果や成果物の再利用もあって生み出されたサービスということでした。

・厳格なデザインプロセスは本当に必要か?

ユーザー調査、ペルソナ分析法というのは良い手法であると思います。ユーザー調査はUXの5Sを構成する戦略部分をきっちり作るためには取り組むべきでしょう。ペルソナ分析法はチームで立ち戻る場所をつくる意味でないよりは確実にある方が良いです。しかしかねてより、これらの手法はITシステムの開発プロジェクトには適さないのではないかと思っていました。なぜなら時間がかかりすぎるからです。実際、マネックス証券さんの事例、すくなくともMONEX VISION βにはでてきません。
最適なUXはコンテキストによる、という言い方をするときもあるのですが、コンテキストを十分に理解しているのであれば、デザインプロセスをある程度省略しても十分に良いコンセプトを生み出すことが出来、その後のプロジェクト運営が適切であれば素晴らしいサービスを構築できる、MONEX VISION βの事例にはそういった気づきがありました。

・ソフトウェア開発に携わる多くの人にとっての希望ではないか

「UXをちゃんとしよう」と思い何から手をつけて良いか調べると途方も無い量の情報にぶちあたります。それらを調べていくとその先にはすぐ「デザイン」という、ソフトウェアのUX以上にもっと掴みどころのない制御困難な世界に迷い込み、結果として何をして良いのかわからないという自体を招きがちです。おそらく多くの開発者はこの時点であきらめ、これらはこの道の専門家の領域であると思うのではないでしょうか。
しかしマネックス証券さんは、まずは目に見えるものを作ってみるアプローチをとりました。これが重要です。まずは作ってみることで多くのことが見えるようになるのです。デザインプロセスの多くは見えないものを見ようとするがあまりに重厚長大で時間のかかる作業をすることになります。しかしそれらの間接成果物を直接成果物に(脳内モデルを実装モデル)に変換する際、ここで上手くいかないと事前の間接成果物はまったくの無駄になります。この場合、予算の無駄も痛いのですが時間の無駄はもっと痛い。変化がめまぐるしいこのご時世において、間接成果物作成に時間をとられてそれが実際のサービスにうまく活かせないとなると死活問題になりかねません。
しかし「まず目に見えるものをつくってみる」アプローチであれば、そのリスクは回避できます。これは別エントリーで書きますが、匠BusinessPlaceの牛尾さんのセッションでも共通のテーマが語られました(このセッションも本当に素晴らしかった!)。
しかし一つ注意ですが、これは十分に必要とされるモノゴトを理解している、コンテキストを理解し、デザインプロセスについても理解があったからできたことであって、ビジネス的な背景を理解していない技術者つれてきて、さあ作れといってもできることではありません。

・ある意味、理想的なアジャイル型の開発

初期コンセプトをもとに試行錯誤をしながらソフトウェアを少しずつ成長させる進め方をとっていました。そして要所要所で実際のお客さまにレビューをしてもらい、そこで得られた意見をフィードバックしていたそうです。意見がわかれるとは思いますが、ペルソナの意見は開発チームが推測するしかありませんが、お客さまの意見に推測は不要です。どう思い、どのようにしてほしいのかはストレートにでてきます。プロジェクトはその意見をとりいれつつ進められたそうです。

・このエントリーで言いたいこと

UXについて学ぶこと、デザインプロセスについて学ぶことは大切です。これからのソフトウェア開発において確実に理解をしておくべき事柄です。しかし”これらを学ぶこと=良いソフトウェアが作れる”ということではありません。実際に構築するにあたっては、利用する技術の特徴を理解しておく必要は当然ですし、それを実践するだけの腕前も必要になります。また手法を学べばできるものではなく、より多くの、それも良いソフトウェアに触れた経験も必要なります。
またプロジェクトとは採用するプロセスやプラクティスはそのプロジェクトにあわせて組み合わせるのが正解です。今回のマネックス証券さんにおいては、厳格なデザインプロセスは不要でした。しかしいつもそうだとは限りません。何が必要で何が不要であるかの判断は現場で実際に作業をするチームにもよります。ここが腕前の見せどころなはずです。
マネックス証券さんの事例を聞いて、こんなに素晴らしい開発事例があるのかと感動し本当に清々しい気持ちになりました。是非、この成功事例を、ITに関わる全ての方に知っていただければ幸いと思います。